ハワイ大学がんセンター(University of Hawaiʻi Cancer Center)は、国立がん研究所(NCI)指定のがんセンターとしてハワイ州で唯一の存在であり、ハワイ大学マノア校の一部としてホノルルで研究・診療・教育を行っている。がん罹患の民族間格差の解明を主軸に、1993年から96年にかけてハワイとロサンゼルスで21万5,000人以上を追跡登録した長期疫学研究「多民族コホート(Multiethnic Cohort、MEC)研究」を運営することで知られる。
2025年8月31日ごろ、同センター疫学部門の研究用サーバーへの不正アクセスが発覚した。フォレンジック調査により、ランサムウェアグループがネットワークに侵入してファイルを暗号化するとともに、一部の研究ファイルを窃取していたことが判明した。影響を受けたファイルの多くはMEC研究に関するものだったが、氏名・生年月日と組み合わさった社会保障番号(SSN)を含む記録も存在した。これらのSSNは、1990年代当時に本人識別番号として広く使われていた名残で、2000年にハワイ州運輸局から収集された運転免許記録、および1998年にホノルル市郡から収集された有権者登録記録に由来し、いずれも研究参加者の募集目的で保管されていたものだった。臨床試験部門・患者診療・電子カルテ・学生記録への影響はないとされている。
窃取データの機微性の高さから、大学は脅威アクターとの交渉という難しい判断を下し、外部のサイバーセキュリティ専門家を通じて復号ツールを入手するとともに、データの公開を防ぐため身代金を支払った。窃取された情報がすべて削除されたとの確約を得ており、記録時点で情報の公開・不正利用は確認されていない。攻撃を行った脅威アクターグループの名称は公表されていない。
2026年1月15日、大学はプレスリリースおよび州司法当局への届出を通じて本件を公表したが、当時はファイルの精査が続いており対象者数は未確定だった。データの量・暗号化の複雑さ・記録の古さ(最も古いもので1990年代収集)から精査には時間を要し、2026年2月23日にMEC研究参加者87,493人へ通知書を郵送、同月27日の公式発表で運転免免許・有権者登録記録等に由来する追加対象者が約115万人に上ることを明らかにし、合計で約124万人が影響を受けたと確定した。連絡先が判明した約90万件のメールアドレス宛にも通知が送付されたほか、専用コールセンターを設置し、対象者には12か月間の無償クレジットモニタリングおよび身元盗難保険が提供されている。
大学は再発防止として、がんセンターのネットワーク再設計・強化、エンドポイント保護の拡充と24時間監視体制の導入、機密データへのアクセス制御強化、研究用サーバーの全学的なデータセンターへの移行、職員へのセキュリティ研修義務化、第三者機関による全学的なセキュリティ統制評価を実施した。また、研究関連のサイバーセキュリティを統括する新たな「情報セキュリティガバナンス評議会」と、全学的な「情報セキュリティタスクフォース」を設置し、ハワイ大学システム10キャンパス全体でのIT体制見直しを進めているとしている。